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ざわざわと、強めの風が木々を揺らし、葉が踊り擦れ合う。この年の桜は早々にその花を散らせ、青々とした葉を茂らせていた。
入学式を終え、新たな学舎となった高校にも慣れ始めた頃であろう、一年生の少女が校庭の外周上に佇む。
まだ、春らしい穏やかな気温なので暑い訳ではないはずだが、少女の肌は紅潮していた。潤みを含んだ大きな瞳は、部活動に励む一人の少年を見つめている。
手にはスポーツドリンクの入ったペットボトルと、清潔感のある純白のタオルが握られていた。
飽きる様子も無く、長々と佇み続ける。
まだ空が蒼い時間から見ていたが、既に茜色に染まっていた。
部員達が一ヵ所に集まり、簡易的なミーティングを始めた。代表と思われる少年が号令を掛けると、
「――っしたぁ!」
と、大勢の部員達がそれに応え、散々になっていく。
再び練習を始める者。
その場で話をする者。
片付けをする者。
部室へ歩き始める者。
その中の一人、見つめ続けていた少年に向かって少女が走り寄って行った。
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