依頼者  堤 純平

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 太陽が地平線より下がりつつも空を照らそうとするが、蘇芳に染めるのがやっとのようだ。  夏至を越えたばかりとはいえ、昼が永遠に続くわけではない。必ず夜は訪れる。  それは恋にも言えるかもしれない。  男女の恋心は焔の如く激しく燃え上がるが、いつかは冷めてしまう。恋心が愛へと昇華しない限り覆る事はない。  最も恋多き年頃――十代半ばを過ごす高校生時代は、人生で最も恋を多く体験することだろう。  ここにも一組の恋人達がいる。そしてそれはあくまで恋であり、愛ではないようだ。 「もう別れましょう。疲れたわ」  琥珀色の髪の少女が冷たく言い放った。 「待ってくれ……何が原因なんだ? 僕に悪いところがあるなら直すから」  いかにも優等生、そういった印象を与える少年が懇願する。 「どうせ直らないからいいわよ。サヨナラ」  少女は踵を返してすらりとした細足を踏み出す。  背を向けられたままの少年はその場を動かずにぽつりと溢した。 「何故だ……」
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