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この数日は真夏日や猛暑と呼んでも生温い程に暑かった。
そして今日もやはり暑い。
日に日に熱中症患者は増加しているとニュースで見たな。
長身で細身、その割には筋肉もしっかり付いていて、何かしらスポーツをやっているのではないか、と勘違いされやすい少年――高木誠はなんとか暑さを紛らわそうと、そんな事をぼんやり思い出した。
しかし彼の暑さは他の人とは少し違う。何故か? 相も変わらず全力疾走で学園に向かっているからだ。
滴る汗に不快感を感じたのか、足を止めた。
いや、違うようだ。
肩で息をしながらも、闘志の籠った両の眼は前方をやや上目遣いで睨み付けている。
その相手は最早好敵手と呼んで差し支えないであろう、二年と二ヶ月を毎日のように闘ってきた坂。
呼吸を整え、一足飛びに駆け出す。
湿った制服が肌に張り付き動きが制限され、苦悶の表情を浮かべる。そのもどかしさは暑さに拍車を掛け、更なる発汗を促す。
これ程見事な負の連鎖も珍しい。
それでも誠は止まらなかった。
「だあぁ! ちきしょおぉ」
が、やはり予鈴は坂の半ばで聞こえてきた。
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