第零章 とある戯言

4/4
507人が本棚に入れています
本棚に追加
/468ページ
「あなたはおかしな人ですね。春夏冬秋」 「俺からすれば、閻魔様ほどおかしな人は見たことがないけどな」 「そうでしょうか」 「それ以外ないだろ」  これは、初めて出会ってから、一週間が経過した時の会話。  その時から俺は、映姫様の許で働くこととなった。  結局のところ、俺達は似た者同士だったのだと思う。  居場所を奪われた者。  居場所を見つけられない者。  多分、それだからこそ俺達は、最初こそあれだけ、拒絶しあったのだろう。  鏡、とまではいかないものの、だからこそ俺達は、好感にも似た親近感を抱いたのだろう。  自分のことを許せなかったからこそ相手を許せて、自分のことが嫌い過ぎたからこそ、自分じゃない相手を認めることが出来た。  傷の舐め合い、と言われてしまえばその通りなのかもしれない。  でも、今となってはそれで、良かったのだとは思う。  でも。  自分が許した存在を、他の誰かが許してくれるわけがなかった。  世界が、許してくれるわけが、なかった。  これは、そういう物語。  大袈裟でなく。  それによって。  世界が壊れるような。  そんな、物語。  幻想の残る郷で、俺と、映姫様と、本当の意味で『鏡』のような、『相似』のような存在が、例外なく巻き込まれる。  良い終わり方になるのか、そもそも終わりというものに良し悪しがあるのかはわからないが、終わりまでは、語らせてもらおう。  ここは幻想郷。  狂おしくも全てを受け入れる、忘れられた楽園。  住民ですらも楽園であるということを忘れた、楽園。  少しばかり前置きが長すぎた。  まあ、それでも前置きの役割が出来たのかどうかは、微妙なのだけど。  それじゃあそろそろ、ご覧になってもらおうか。  幻想となった存在の、末路を。
/468ページ

最初のコメントを投稿しよう!