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「ここだって、一応は神社だもの。それくらいはやるわよ」
「へえ。まあ、そりゃあそうだな。なら、わざわざ賽銭を催促しなくても、そっちを売り込めば良いんじゃないか?」
「売れるなら、最初からそうしてるわよ」
博麗は、呆れたように肩を竦める。
「幻想郷は、基本的には今みたいに平和なのよ。誰も不自由しない、不幸にならないくらいにね。だから、わざわざお守りやら、神頼みなんて、する必要がないのよ」
まあ、そのおかげで私は、多大な不幸を被ることになっているんだけど、なんて言った後に、博麗はお茶を啜る。
それにしても、誰も不幸にならない、か。
たしかに、それはその通りなのかもしれないけど、実際のところはどうなんだろう。
そもそも、不幸というものは一体、どういうものなのだろうか。
俺は今、幸せなのだろうか。
いや、それよりも、幻想郷は今、本当に――平和なのだろうか。
「ああ、そういえば」
湯呑みから口を離した博麗が、唐突にそんな声を上げる。
「あんた、今日はどうして一人なのよ。いつもここに来る時は、二人一組だったじゃない」
「ん? ああ、たしかにそうだったかもな。何か、あの人もあの人なりに忙しいらしくてさ、こっちまで手が回らないんだと。それに俺も、一人でこっちまで来れるようになったからな」
「ふうん。なんだ、喧嘩したわけじゃないのね」
「……何でそうなるんだよ」
つまらなさそうな表情のまま、博麗は続ける。
「だって、あんた達二人っていつ見ても一緒に居たじゃない。そう思われても仕方ないわよ」
「仕方ないってことでもないと思うけど……」
まあ、事実この博麗神社に一人で来たということも、これが初めてなのだ。
思い返してみれば、たしかに二人でいることの方が、圧倒的に多かったかもしれない。
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