第一章 幻想の現象

8/43
前へ
/468ページ
次へ
「まあな。今日は一応、白玉楼にも寄らなきゃいけないんだよ」 「ふうん。白玉楼ねぇ……」  どこか不審そうに目を細めながら、そう反応する。  別に、嘘を言っているわけではないんだけどな……。  でも、たしかに少し露骨に帰ろうとしたかもしれない。  まったく、博麗は妙に……いや、異常な程奇妙に勘が良いからな。  というか、良すぎる。  それはもはや、鋭いというレベルではない。  だから、こういう風に追及されてしまうと、少しどきっとしてしまう。  しかし、それがあるからこそ、幻想郷の現状を知るのには、ここが最適なんだろうけど。 「と、いうわけでだ、博麗。俺はそろそろ、行かなきゃいけないんだけど」  俺は言いながら、腰掛けていた縁側から立ち上がる。 「わかったわ。どうせ、大して話すことも無かったし。幽々子と妖夢にはよろしく言っておいて。最近、全然会ってないから」  とりあえず、そう言ってくれた。  博麗の言うところの幽々子と妖夢というのは、これから向かう西行寺の主と、庭師のことだ。  幻想郷のパワーバランスを担う程の強さ――ハイエンドクラスの力を、たったの二人だけで所有する、白玉楼。  まあ、普段はあんまり、そんな風には見えないのだけど。 「それじゃあ、また今度。次もお賽銭だけは絶対に忘れないでね」 「わかってるよ。でも、次来るまではもっと安定した稼ぎ口でも確保してろよ」  そう言い残し、後ろの方でうるさく言い返している博麗には気も留めずに、俺は空中に浮かび上がった。        ◆  空を飛んで、白玉楼を目指す。  ただしそれは、航空機のように速くもなく、鳥のように優雅でもなければ、蝶のように可憐でもない。  そこそこのスピードで、それなりにふわふわとしながら、紛れも無い人間である自分自身の体で、飛んでいる。
/468ページ

最初のコメントを投稿しよう!

506人が本棚に入れています
本棚に追加