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「まあな。今日は一応、白玉楼にも寄らなきゃいけないんだよ」
「ふうん。白玉楼ねぇ……」
どこか不審そうに目を細めながら、そう反応する。
別に、嘘を言っているわけではないんだけどな……。
でも、たしかに少し露骨に帰ろうとしたかもしれない。
まったく、博麗は妙に……いや、異常な程奇妙に勘が良いからな。
というか、良すぎる。
それはもはや、鋭いというレベルではない。
だから、こういう風に追及されてしまうと、少しどきっとしてしまう。
しかし、それがあるからこそ、幻想郷の現状を知るのには、ここが最適なんだろうけど。
「と、いうわけでだ、博麗。俺はそろそろ、行かなきゃいけないんだけど」
俺は言いながら、腰掛けていた縁側から立ち上がる。
「わかったわ。どうせ、大して話すことも無かったし。幽々子と妖夢にはよろしく言っておいて。最近、全然会ってないから」
とりあえず、そう言ってくれた。
博麗の言うところの幽々子と妖夢というのは、これから向かう西行寺の主と、庭師のことだ。
幻想郷のパワーバランスを担う程の強さ――ハイエンドクラスの力を、たったの二人だけで所有する、白玉楼。
まあ、普段はあんまり、そんな風には見えないのだけど。
「それじゃあ、また今度。次もお賽銭だけは絶対に忘れないでね」
「わかってるよ。でも、次来るまではもっと安定した稼ぎ口でも確保してろよ」
そう言い残し、後ろの方でうるさく言い返している博麗には気も留めずに、俺は空中に浮かび上がった。
◆
空を飛んで、白玉楼を目指す。
ただしそれは、航空機のように速くもなく、鳥のように優雅でもなければ、蝶のように可憐でもない。
そこそこのスピードで、それなりにふわふわとしながら、紛れも無い人間である自分自身の体で、飛んでいる。
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