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それこそもはや、登らせる気なんてさらさらないのではないか、と思ってしまうくらいだ。
まあ、たしかにここは、そういう考えがあって作られていたとしても、あながちおかしくはないのかもしれない。
一度だけ歩いて登ったことがあったが、それはもう大変だった。
俺は、足元から階段の頂上までをなぞるように見上げた後に、上昇を開始する。
それにしても、何度見てもこの高さには、溜息が出そうになるな。
自分で自由に飛べるようになって楽になったとはいえ、こういうのを見るとなんというか……。
見るだけで疲れるというか、モチベーションが下がるというか。
やがて視界が開けて、目の前の光景は無機質な石のそれから、赤色に近い桃色の光に変わった。
その正体は、無数に生えた桜の木。
まだ花は咲いていないものの、その壮大で、圧倒的なまでの数の多さには、また満開のものとは違った美しさがあるように思える。
……しかし、そういう教養みたいなものは全く持ち合わせていないから、実際のところはよくわからない。
地面を確認するようにして、静かに着地する。
冷たい石畳の硬さが、足を通して伝わってくる。
「ふう……」
到着。
桜の名所。
桜の冥所。
白玉楼。
そういえば幻想郷では、春は白玉楼、夏は博麗神社で、大宴会が開かれるんだっけ。
まだ俺は一度も参加したことはないのだけど、この様子だともう少しで開かれそうだ。
「……まあ、まずは仕事だよな」
うん。
桜のことをよく知らない俺が、いくら桜を賛辞することに時間を使っても仕方が無い。
かといって、仕事仕事というのも何となく、さっきの博麗に言われたことが引っ掛かる気がして、あまり気が進まないのだが。
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