第一章 幻想の現象

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 それこそもはや、登らせる気なんてさらさらないのではないか、と思ってしまうくらいだ。  まあ、たしかにここは、そういう考えがあって作られていたとしても、あながちおかしくはないのかもしれない。  一度だけ歩いて登ったことがあったが、それはもう大変だった。  俺は、足元から階段の頂上までをなぞるように見上げた後に、上昇を開始する。  それにしても、何度見てもこの高さには、溜息が出そうになるな。  自分で自由に飛べるようになって楽になったとはいえ、こういうのを見るとなんというか……。  見るだけで疲れるというか、モチベーションが下がるというか。  やがて視界が開けて、目の前の光景は無機質な石のそれから、赤色に近い桃色の光に変わった。  その正体は、無数に生えた桜の木。  まだ花は咲いていないものの、その壮大で、圧倒的なまでの数の多さには、また満開のものとは違った美しさがあるように思える。  ……しかし、そういう教養みたいなものは全く持ち合わせていないから、実際のところはよくわからない。  地面を確認するようにして、静かに着地する。  冷たい石畳の硬さが、足を通して伝わってくる。 「ふう……」  到着。  桜の名所。  桜の冥所。  白玉楼。  そういえば幻想郷では、春は白玉楼、夏は博麗神社で、大宴会が開かれるんだっけ。  まだ俺は一度も参加したことはないのだけど、この様子だともう少しで開かれそうだ。 「……まあ、まずは仕事だよな」  うん。  桜のことをよく知らない俺が、いくら桜を賛辞することに時間を使っても仕方が無い。  かといって、仕事仕事というのも何となく、さっきの博麗に言われたことが引っ掛かる気がして、あまり気が進まないのだが。
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