第零章 とある戯言

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 事実、今の世の中では多くの人が複雑な世の中に対してどのように考えて良いのかわからずに、結局はその場しのぎの行き当たりばったりで人生を選択して、運命に翻弄されて、ただあたふたしているだけではないか。  だから俺は、人生は自分で決定するものだと思っている。  いや、思っていた、か。  自分の人生を、対比対象というものがあるのかすらわからないまま、ただ一度きりの人生を運命に翻弄されるなんてことはないように、できるだけより良く、人よりもより良く送ろうとしていた。  でも、人生というものは、俺の理解を遥かに超えて複雑だった。  運命というものは、俺なんかでは到底抗えないくらいに、絶対的だった。  ある夜の路地裏。  正確な時間なんて、覚えていない。  ただ、それが夜だったとしか、覚えていない。  もっと言ってしまえば、俺がどうして学校帰りなんかに路地裏に行こうとしたのかすらも、覚えていない。  でも、俺はその時の出来事で、自分の考えがいかに幸せで愚かな思い違いだったかということを、嫌というほどに思い知らされた。  はっきりと、それだけは覚えている。  黒く、闇に溶けるほど黒く、闇そのものではないのかと思うほどに黒く、闇よりも黒いその存在の、対照的な白い手から発せられる炎。  橙色に輝き、生命力のようなもので満ち溢れているかのような、焔。  それに俺は――  存在を、焼きつくされた。  存在を、奪いつくされた。  燃え滓すらも、欠片も残らないくらいに。  俺はそこで、自分の思い上がりのような間違いに気付かされ、運命というものを思い知らされながら、意識を手放した。
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