寒い冬の日の出来事

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年が開けて、もう子どもの冬休みも終わりに近づいたある日。 隣の若い奥さんと、世間話をした。 「ところで、あの3軒先のお婆さん、私、最近見ないんだけど、息子が引き取ったの?」 「え?死んじゃったんじゃない?」 「えっ…そうなの?私は11月の終わりの寒い日に、そこの通りで見かけてから、ちっとも見なかったから、どおしてるのかなぁって思ってたの。病院にでも入ってたのかな?」 「突然死だったんじゃないかと思う。だって、警察が来てたみたいだよ。確か、12月の中ぐらいだったかな…うちのお父さんが、仕事の帰りに通ったら、あの家の前にパトカーが停まってて、KEEPOUTの黄色いテープが貼ってあった!って言いながらに家に入って来たのよ。私もえぇ~ってビックリしちゃって。孤独死だったんじゃないかな。私もお父さんと、11月の終わりぐらいから見ないねって話をしてたんだよね。子どもを剣道に送る時間に、よくお買い物帰りでシルバーカーを押して歩いて来るの見かけてたから。」 「誰も気付かなかったのかな。一人なのに、毎日、電話とか…してなかったのかな…。」 「淋しいよね。」 丁度、その2日後。 自治会長の名前で、12月に急逝し、葬儀は身内で済ませましたと記された彼女の訃報が届いていた。 今では、住む人のないその家の軒下に、背の高い草が伸びている。 私は滅多に彼女を見ることがなかったけど、小さな身体できっと彼女は庭の草むしりを欠かさなかったのだろう。 この広すぎる家で、日々彼女はどんな風に暮らしていたのだろう。 独り、自分の老いとどう向き合っていたのだろうか。 あの日、玄関マットにちんまりと座っていた小犬がどうしたかさえ、今となっては分からない。 彼女の声はもう聞こえない。
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