帰省

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1時間に1本しかない鈍行列車に揺られながら、山間部独特の両側が山裾に囲まれた風景に僕は軽く嘆息した。 車両には僕の他に老人が二人いるだけで、時折ポツリポツリと他愛ない話をしている様子だった。 深緑の針葉樹が昼間にも関わらず、寂し気な陰を作る。 僕は二人掛けの座席に座り、窓の縁に肘を置き頬杖をついていた。 埃っぽい車窓が、突如黒に染まる。 トンネルに入ったのだ。 耳障りな金属音がトンネル内で反響し、それと同時に車内灯が淡い橙色に灯る。 そして真っ暗な景色に映る青白い自分自身の顔。 僕は己の姿に軽く身震いした。 生気の無い、自分の目が怖い。まるで石ころみたいに感情の浮かばない、真っ黒な瞳が酷く恐ろしいのだ。 無意味に咽がヒュッと鳴った。 やがて列車がトンネルを抜けた頃には、僕のこめかみを夏の暑さとは関係ない、冷やかな汗が一筋流れていた…。
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