事情

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旧家屋の和室は、僕が3年間過ごした大学近くのワンルームが軽く入ってしまう程広い。 家具も無い室内で、父が身じろぎする度に、怯え肩を震わせる惨めな僕がいる。 外では蝉が煩いくらいに泣きわめき、湿気を含んだ風と共に息詰まりそうな室内へ生気を運ぶ。 「で、どうするつもりだ」 骨太な父の低い声が僕を捕えた。 瞬間、背中を冷たい汗が流れた。 「あ…その…」 口ごもる僕には一瞥もくれず、父は尊大な態度で座卓の上の湯呑みを掴んだ。 父は僕に苛立っているのだ。 就職も決まらず、大学での成績もぱっとしない僕に…。 宮内の家は山林を所有しており、樹木の伐採や採石、そしてそれに伴いコンクリート製造業も手掛けている。 それでも父が現役である以上、僕は何処かの企業に就職し、社会勉強をしなければならなかった。 だが現実は厳しい。 優柔不断で覇気のない僕は、尽く不合格を貰ってしまった。 「お前には…元から期待はしていない」 父は僕を見ようともしない。 そして僕は…父を見る事が出来ない。
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