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目の前には『アクア・ファング』。
左右にも逃げ場はなく、逃げる術を持たない彼女は目を瞑った。
と、その直後に彼女の体は舞い上げられ、そして渦の中心部へと引き寄せられていった。
耳元で絶えず鳴り続けるゴウゴウという水の雄叫び。
体が四方バラバラに引っ張られているかのような感覚。
恐怖で何も考えられなかった。
薄れゆく意識の中、彼女が最後に目にしたのは、先程まで一つの固体となっていたもの。
今は襲い掛かる牙のせいでバラバラに、散り散りになっていく『人魚姫』の本だった。
『―――ごめんなさい、ダランじい…、アイリス…。それに…。』
そこでリリアの意識は闇に飲み込まれた。
意識を手放す直前、彼女は何を言おうとしていたのか、それを知る者は、居ない。
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