序章

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 ――突如それは始まった。  きっかけなど人々には分からない。ただ突然に、世界が壊れた。 『第三次世界大戦』  たった三年。三年という短い歳月の間に世界は破壊され、世の秩序は一変した。  それは日本も例外ではない。非核三原則、平和主義など国を束ねる人々に無残に踏み潰され、今や銃声が聞こえない夜などない。  ありとあらゆる犯罪が蔓延る荒れ果て国に、日本は堕ちた。  ――しかし、人々がいる限り街は蘇る。  終戦から七年。まだ争いの傷は残るものの、人々の顔は明るい。  新たな季節を迎えるたびに、少しずつ、世界は息を吹き返していた。       ‡  ――その夜は雷が鳴るほどの雨だった。  彼は一人滝のような雨を煩わしく思いながら家路を急ぐ。空だけ見れば数年前まで戦争が起きていたなど嘘のよう。  この街は郊外ということもあってか、幸いなことに戦争の被害も比較的少なく、学校も職場も再開され以前とほぼ変わらない生活が戻ってきていた。  しかし貧富の差が激しく、犯罪が絶えることはない。激しい雨音に混じってまた微かに銃声が聞こえた。  静寂に抱かれた穏やかな夜はないのか、一つため息をついた時、奇妙な影に気づいた。
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