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「……私は謝らなきゃいけない」
「どうして、ですか」
ベッドに横たわる紫の髪の女性が時折、咳き込みながら赤髪の少女に向かって話す。
「貴女を魔界から召喚したというのに……、貴女を、魔界に還せないなんて……」
赤髪の少女は思う。
この女はいつもそうだ、私は召喚された時点で魔法使いの"奴隷"のようなものなのに、彼女は私を同じ人間のように扱う。
だから、だろうか。彼女の死が近付いてる筈なのに、私の事を案じていたことに苛立ちを覚えた。
「なに、いってるんですか」
「私は……」
呼吸が乱れながらも言葉を紡ぐ彼女を見て、私は拳をぎゅっと握った。
「私の心配よりも、自分の心配をして下さいッ。私は、私の事なんかどうだっていいから……!」
私は彼女の枕元に薬を置いた。
私が仕事をしてお金を貯めて買った薬。今のご時世、薬を買うなんて行為はよほどの金持ちしかやらなかったため、私が金を差し出した時は薬屋が目を丸くしたのは今でも覚えている。
「私は……、貴女の元から去ります。それが一番の方法だから」
赤髪の少女は黒いコートを羽織り、毛糸のマフラーを持ってその家を出た。
彼女を、振り返らずに。出る間際、
「ありがとうございました、私は貴女を絶対に忘れません」
早口で喋った。
そうでもしないと、感情が溢れだしそうで、この決断が揺らぎそうだったから。
私に、悲しむ権利等無かったのだから。
「例を言うのはこっちの方よ。……ありがとう、美鈴」
──バタン
扉が閉まる音を聞いて、赤髪の少女──美鈴はその扉にもたれ掛かって、はぁとため息をつく。
「あーあ、……これから行く宛も無いや」
季節は冬。
美鈴の眼前には白い雪が降り積もっていた。
妖怪の美鈴にとって寒さはあまり感じない方だったがさっきまでずっと暖炉にあたっていた。
そして急激に温度が冷えて美鈴はぶるぶると震えるのであった。
「…………」
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