消えぬ虹に、消えぬ三日月 行間

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耳を貫くかのような風の轟音、重力を無視するような風の力によって、美鈴は魔女の屋根へと舞い降りた。 周りに騎士がいることを懸念して、身を屈めながら周りを見渡す。 地平線の向こうは夕日が沈みかけようとしていた。 美鈴は彼女が言った方向を向いて、屋根から屋根へと飛び移れる場所を探す。 魔女の家から出てきたのだ、美鈴自身追われることは想定していたが、重たそうな重装備に足で勝負するくらいわけないと思っていた。 「……ありがとうございました」 深緑色の帽子に彼女から貰った"お守り"をつける。 彼女が美鈴の心の中で生きている印に──。 粗方、向かうべき方向のルートを考える。 屋根から屋根へと跳び移り、人が外出しない夜に道を走ることにした。 その時、教会の狗が家を蹴破る音がした。 騎士達の吠えるような雄叫びに、鉄の鈍い音が、一帯に響き渡った。 「…………ッ」 思わず拳を握ってしまう。 こんなに人間が憎いと思ったのは初めてだった。 今すぐにでも、この家を荒らす人間共を一人残らず血祭りにあげたかった。 ──その少女に、穢れた手で触るな、と 今にも叫びたい衝動なんとか抑え、畜生……!と小さく涙を堪えるように絞り出す。 一体彼女が何をした? 平和に、日の当たる場所で暮らしたかったのに──。 なんで、こんなにも、 この世界は不条理な出来事で埋め尽くされているのだろうか。
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