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その声が聞こえた途端、幽香が眼前にいた。
直撃したはずの幽香の体には案の定かすり傷しか無かった。
全く、やりにくいったらありゃしない。
さっ、と紫は隙間を開き鉄塔を前方にいる幽香目掛けて放つ。
幽香は見たことがなかった。
こんな大きな鉄の塊を。だからこそ、前方にあるものが何なのか、素手で壊せるものなのか、それとも弾幕で消し去る事が出来るのか、その一瞬の判断の躊躇いに紫は次の手を打つ。
幽香が鉄塔を薙ぎ払う。
鉄の塊が幽香の手によってへの字に折れ曲がった。
金属が凹むような重低音が響き、鉄塔の向こうの紫へ突撃する。
紫は格闘戦が弱い。
幽香はそうみていた。
紫の懐に飛び込み、鳩尾狙いのストレートを打ち込む。
……その筈だった。
──右から、クスリと笑う紫が見えた。
「ち──」
体を捻り、次こそ紫を狙い蹴りを入れようとする。
「遅いわ」
また、避けられた。
力も速さも私の方が上の筈なのに。
心の中で悪態をつきながら幽香は思案する。
……なにがいけない?
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