146人が本棚に入れています
本棚に追加
/270ページ
「あら、私は体術が苦手と思ってるのかしら?」
「…………」
紫がまたくすりと笑う。
「それなら正解、私は体術が苦手よ」
「は?」
弱点を話すだなんて、
裏があるとしか見えない。訝しげに紫を見る。
紫は続ける。
「でも効かないわ、貴女の攻撃を読むくらい容易いもの。二手先、三手先を読むものよ。だからこそ早い行動が出来る、貴女の上をいくスピードを掴む事が出来る」
少々喋りすぎたわね、と思いながら
紫は傘に手をかける。
次は結界を使うか、隙間か?
「ありがとう、紫」
幽香が衣服の汚れをとんとんと叩いて落としながら、落ち着いた声で話す。
「"服の汚れは落としておいた方がいいかもしれないわ"」
「どういう──」
その刹那、幽香がまた紫の懐へ潜り込む。
距離という概念すら忘れ去るほどのスピード、そして一瞬でブレーキをかける反動を利用しての、
「───!!」
幽香の右手が紫を捉えた。
その動きに合わせて紫は右半身を後ろに背け、拳を受け流した。
──ピタッ
「!?……フェイント!!」
「遅いわ」
だん、と踏み込み、紫に膝蹴りが入る。
鈍い音がした気がした。
「ぐっ……」
これだけじゃ終わらない、終わらせない。
体を捻り、怯んだ隙に強力な右ストレートが
「続けざまに食らうと思った?」
「あら、見掛けよりタフなのね」
右手が紫の手によって止められた。
みしみし、と幽香の拳を砕かんとする力に、幽香は笑わざる得ない。
だって、楽しくなってきたから。
「マスタースパーク」
「四重結界」
右手が使えないのなら左手を使えばいい。
……そんな考えもお見通しなのか、紫は左手で四重結界を展開し、ほぼ零距離の破壊光線を防ぎきる。
"だってそれくらい私でも予測出来たから"
「「詰めが甘いよ、紫」」
紫の背後にもう一人の幽香がにたりと笑って紫を見下ろす。
燦々と輝く両手は、まさしく先程のマスタースパーク。
「……なっ」
稲妻の轟くような爆音が辺りを支配した。
直撃した、その事実だけで充分。
最強と云われる妖怪もあれを食らえばひとたまりもない筈だ、それに四重結界の介入すら無い筈。
確かな手応えが、あった。
最初のコメントを投稿しよう!