第1章 思わぬ出逢い。

2/26
134人が本棚に入れています
本棚に追加
/126ページ
夕暮れの街が暖かい色をして人々を包んでいた。 道の上をオレンジに染める街灯が、ポツリポツリと灯り始める。 まだ肌寒い季節。 日中は風さえなければ暖かいが、日が暮れてくるとそれに比例して寒さは増していく。 コートの襟を立てて風を避けながら、僕は1人家路を辿っていた。 毎日同じ道を通る。 それを飽きるほどの月日繰り返しているが、何を変えることもなく今日も下を見ながら歩いている。 誰も待たない部屋。 僕は急ぐことを知らないふうにゆっくりと歩く。 「ちょっとお兄さん!」 人通りの多くない道。 背後から誰かが大きな声をあげたので、僕は驚いて振り返った。 僕の他に数人の通行人がいたが、どうも叫んだのは僕の方を見ている男のようだ。 その人は、振り返った僕を見て笑いかけた。 立ち止まり周囲を見渡す。 僕以外に立ち止まっている人はない。 「お兄さんだよ!」 その男の人がまた叫ぶ。 振り返ると、彼は僕を見て今度は手招きをした。 やっぱり、僕を呼んでいるようだ。 近づいていくと、背の高い恰幅のいいおじさんだった。 体が大きくて一見怖そうだが、目が優しい気がする。 会ったことはないようなのだが………。 「突然呼び止めてすまなかったね。お兄さん時間あるかな?」 「え?まぁ……」 「じゃあさ、ちょっと寄っていってよ。」 微笑むと、おじさんはすぐ横のドアを開けて入っていった。 おもちゃ屋さんだ。 ディスプレーされた可愛いおもちゃが、一瞬僕を躊躇わせた。 戸惑いながらも店内に入る。 「ちょっと待ってて。」 男に言われたので、僕は何が何だか分からないまま頷いて1人店内を眺めた。
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!