第2章 桜儚く散る時が。

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僕の毎日に、ルイの存在は当たり前になっていた。 家に帰ると「おかえりなさい」と出迎えてくれる。 洗濯も、料理も、掃除も完璧にこなしてくれて、今となってはルイがいない生活は考えられないほどだ。 最初のうち、ルイは家の中から出ることがなかった。 出ること、というより出すことがなかったというのが正しいのかな。 ルイは毎日、部屋の中で僕の帰りを待ち、僕のために働き、僕のために笑っていた。 なんてことのないことだと思っていたが、そのうち、それが可哀想に思えてきた。 そんなある日。 「外に出てみたい?」 僕はルイに問いかけた。 それはちょっとした思い付きであり、いたずらのようなものだった。 僕はルイがどんな表情を見せるのか、それだけが知りたかった。 ルイが目を丸くして、僕を見た。 「外って、どんなところでしょう?」 この一言に僕の胸がチクリと痛みを発した。 なんだろう。 きっと可哀想に思ったんだと思う。 ソファーに並んで座っていたルイの髪を、僕はそっと撫でていた。 髪を撫でられて、ルイが嬉しそうに笑った。 「明日、一緒に買物に行こうか。」 「はい!」 なんの感情もないことはわかっていた。 計算された表情なのだ。わかっている。 それでも僕は、この頃からルイの表情1つ1つに喜びを覚え始めていたんだと思う。 外に出た時、ルイはどんな顔をするだろうか。 どんな表情を見せてくれるだろう、ルイの髪を撫でながら僕は笑みを溢していた。
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