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「私は生きていないから温度がないんです。」
ルイがあまりに唐突に言うから、僕は何を言いたいのかとルイの顔を見た。
「少しよろしいですか?」
そう言うと、僕の頭を自分の胸元に引き寄せる。
ルイに身を預けるようにして、僕は緊張した。
「聞こえますか?」
そう聞かれても、何のことだかすぐにはわからなかった。
でも、意識を耳に集中してみた。
聞こえてきた音が僕を切なくするなんて、これっぽちも気付かないで。
僕の耳に聞こえてきたのは、モーター音だった。
鼓動ではなく、人工的な乾いた音。
人間なら心臓のある部分に耳を当てていたが、音はそこからではなく、どこか位置の違う部分から聞こえてきている気がする。
僕はそっと頭を離す。
「アキノリさんに抱きしめられてわかりました。アキノリさんは生きていて、私は生きていない。それを感じたんです。」
「あの時?」
ルイは頷いた。
「“鼓動”というのですね。大井田さんに教えてもらいました。それが人間とアンドロイドの違いだと。」
自分の胸に手を当てて、ルイは言葉を続ける。
「私の体からは何も響きません。」
どうしてそんなことを言うのだろう。
僕にはわからなくて、だけどそのルイが可哀想に思えた。
「ルイは人間になりたい?」
僕が聞くと、手を胸から離してルイが答える。
「わかりません。」
僕は笑っていた。
そうだよな。
この子には、そんなことわからない。
ルイの手をまた握り、僕はルイを抱き寄せた。
「ルイ、ずっと僕の側にいてくれる?」
その日の夜、僕はルイを抱きしめて眠った。
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