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おもちゃ屋の前で僕は立ち止まり、ドアを開けた。
「いらっしゃいませ。」
優しい声だ。
だけど、それは大井田の声じゃない。
僕に声をかけたのは大井田の奥さんだった。
「大井田さんは?」
思わず僕は奥さんにそう言っていた。
言った直後、その失礼さに申し訳なくなった。
奥さんはそんなこと気にしないと言うように笑うと、大井田は姪御さんが入院している病院に行ったのだと教えてくれた。
「姪の意識が戻ったのよ。ついさっきなの。もう少ししたら店を閉めて私も病院に行くつもりなの。」
ニコニコしている奥さんに、僕はありきたりな返事しかできなかった。
僕は挨拶をして店を出た。
「大井田さんによろしくお伝えください。」そう言うと、奥さんが笑顔で頷いた。
「あの人、あなたのこと気にしていたから、ちゃんと伝えておくわね。元気だったって。」
笑顔に見送られながら店を出た。
街には人が行き来する。
ユラユラと揺れて歩きながら、僕は曇り空を見上げていた。
擦れ違う人の目に僕はどう見えているんだろう。
あと何十歩かで部屋だ。
アパートの前で立ち止まる。
部屋を見上げて、溜息をついた。
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