第4章 無音の響く涙。

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「ただいま!」 誰もいないことがわかってる部屋に僕は言った。 虚しく響く声。 テーブルに買ってきた弁当を置いて、ベッドの横に眠っているルイの元へ。 箱の中でルイは穏やかな寝顔を見せている。 箱をあけ、ルイの体を抱きしめた。 温度のない体から、冷たさが伝わってくる。 あれほど温もりを感じたはずの体……。 それは幻だったのだと今さら気付かされた。 ルイの温度は、僕自身の温度でしかなかった。 冷たい手を温めて、僕は僕自身の温度をルイを通じて感じていただけだった。 抱きしめてそんなことを思っているうちに、ほら。 徐々にルイの体が熱を持ち出した。 動かないのにどうしてさ……。 どうしようもない涙が次から次に流れて、ルイの服を汚してしまう。 薄ピンクのワンピースは、一番最初に買ってあげたものだ。 今さら泣くなんて、僕どうかしてるよ。 わかってるのに、どうしようもできない。 止めどない涙は、夜の闇にさえ溶けることを知らずにルイの服を汚した。 僕の涙が止まったのは部屋が夜に飲まれた頃だった。 僕はルイの体から身を離した。 微動だにしないルイの表情に、また涙がこみ上げる。 でも、泣いてる場合なんかじゃない。 箱の中にルイの体を寝かせた。 それからクローゼットの中を片付けて、奥のほうにルイを押し込んだ。 簡単にはどうしていいかわからないから、とりあえず目に付かないところへ……。 何も言わないままクローゼットの扉を閉めて、リビングに戻り弁当を食べた。 なにがってわけじゃなく、いつになく味気のない食事。 シャワーを浴びずにベッドに入った。 目を閉じても眠れない。 忘れなくちゃいけないんだ。 たかがアンドロイド。 形のある幻を愛してしまったんだって、何度も繰り返した文句を自分に言い聞かせた。 明日の朝を迎えたら、もうルイのことを愛してたなんてことは夢だったと思おう。 ……そう思えるように努力しよう。
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