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おもむろに大井田が店の入り口に向かって行く。
ドアの外にかかっている『Open』の札を裏返して『Close』にすると、大井田は店内に戻り、中から鍵をかけた。
いつもならまだ営業している時間のはずなのに。
「今日は客も来ないだろうから閉店だ。ゆっくりしていけばいい。」
優しい微笑みに、僕も笑みを返した。
大井田もレジの向こうに座り、2人でミルクティーを飲みながら他愛ない話をした。
何か聞きたいことがあって呼び出されたのだと思ったが、それを聞く気にはなれなかった。
きっと、間違いなくルイに関することだろうと予想できたから。
ミルクティーのカップはすぐに空になり、大井田がおかわりを持ってきてくれた。
お礼を言って受け取る僕に、大井田はやはり笑顔だ。
「このミルクティー好きかい?」
「はい。とっても美味しいですよね。これも奥さんが?」
「いや、これは俺が。」
それだけ言うと、僕と大井田の会話は途切れた。
時折クッキーを食べる音と、ティーカップが皿に当たる音が大きく聞こえる。
店の外を歩く人も減ってきた。
この人たちは、いったい何を目指して歩いているんだろう。
ふと、僕はそんなことを考えた。
家族が待つ家だろうか。
1人きりだけで開放感ある自由な部屋だろうか。
それとも、恋人のところか。
なんにしても羨ましいな。
僕は今、どこにも目的地がない。
自分の部屋にさえも、今は寂しさしか待っていない。
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