第5章 「心をください。」

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夕暮れなんてとっくに過ぎて、街は薄暗くなっていた。 少し風に寒さを感じないでもない。 そう遠くないはずの自分の部屋が、今日に限って随分と遠く感じる。 「心をください。」 ルイが大井田に言ったという言葉が、グルグルと繰り返されていた。 時折、足元がふらつくほど僕の頭はそれだけを見つめ、繰り返している。 どんな考えが、ルイにそんなことを言わせたんだろう。 心があれば僕の側にいられる? 心なんかなくたって、僕はずっとルイと一緒にいたかった。 心なんかなくたって、ルイは十分に人間らしかったし、僕を一番に思っていてくれたじゃないか。 あんなに表情を持って、あんなに言葉を持って……… たとえ、それが組み込まれた膨大なデータによるものでもよかった。 どんなもんで構成されていたとしても、そんなことどうでもいいと本気で思っていたんだ。 温度のない体だって、それだっていいと思ってた。 性別がなくなってよかった。 心なんて、これっぽちの必要性も感じなかった。 ただ、ルイがいてくれたらそれだけでいい。 気付くと僕は部屋ではなく、近所の土手にいた。 ルイと桜を見た場所だ。 桜は咲いていなかったけど、僕は2人で並んで座った辺りに1人で座った。 桜の木は青々とした葉を揺らしている。 「ルイ………」 虚しく風に乗った名前を、もう一度だけ口の中で呼んだ。 あの日のように寄り添う体も、返事をする声もない。 虚無感が僕を包み、僕はそれを振り切れないまま部屋へとまた歩き出した。
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