第6章 後悔に染まる胸。

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―――悲しませるつもりなんかなかったんだ……。 「目覚めたかい?」 「ふふ。ずっと起きてたよ?眠ったフリしてただけ。」 個室のベッドの上、キラキラとした笑顔を私に向けて返事をした。 その無邪気で悪戯っ子らしい笑顔に、私も自然と笑顔になる。 3年も眠っていたなんて嘘のように、目覚めてからの彼女はメキメキと回復していた。 医者も驚くほどだ。 毎日、私と妻が交代で見舞いに来ては短い時間だが彼女のお喋りに付き合っていた。 持ってきた花を花瓶に生けていると、彼女が不思議な夢を見たと話し出した。 私は振り返らずにそれに相槌を打つ。 「目覚める寸前に見たの。眠ってるあの人の隣で幸せなのに、どこかどうしようもないことで寂しさを感じてる夢。  おじさん知ってるでしょ?私がいつも言ってたあの人。」 「琉依!」 思わず私は彼女の名を呼んだ。 琉依が、驚いて私を見た。 後に言葉が続かない私に、彼女が微笑んだ。 「心配要らないよ?ただの夢なんだから~。」 私は誤魔化して笑ったのだが、彼女のその“夢”があまりに現実に似ていて戸惑った。 彼女が知るはずのない現実なんて、気にすることないはずなのに。 「あの人、まだ店の前を通る?」 琉依が私に問いかけた。 3年も眠っていたら、いろいろな変化が起こっていると彼女は思っているらしい。 この3年、懸命に生きていた私にすれば大きな変化などないように感じるが、それは時を越えた彼女にしかわからない感覚なのだろう。 「まだ毎日通っているよ。朝も晩も。」 私の言葉に彼女は満面の笑みを見せた。 そして、早く店に行きたいと言った。
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