第6章 後悔に染まる胸。

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3年前、私の弟が運転していた車が事故にあう直前まで、彼女は私の店を手伝いに来てくれていた。 家が近所だったこともあって、彼女は学校が終わると店に立ち寄っては店番をしてくれた。 学校の休みの日には、開店前から来て閉店と同時に帰ることも多かった。 私と妻は、弟夫婦は共働きだから琉依は口には出さないが、寂しさを紛らわすのに通っているのだろうと思っていた。 そして弟夫婦もそれを感じた上で、私や妻に「琉依を頼む。」と言った。 もう数ヶ月で17歳になるころだっただろうか。 琉依が私と妻に何気なく話した。 毎日、だいたい同じ時間帯に店の前を通る人がいて、何故だかすごくその人のことが気になるのだと。 妻と私は琉依のその話を聞いて頬が緩んだ。 それは恋なのだろうと思ったのだ。 それからというもの、琉依は暇さえあれば毎日店に来た。 店の前を通り過ぎる男を一目見るためだけに。 声をかけるでもないし、何か相手にアピールするわけでもないで彼女はただ彼の姿を眺めるのだった。 「あの人、夢の中でとっても優しかったなぁ。」 帰り際、琉依がそう言ったのを私は笑って聞いた。 「そうかい。よかったね。」としか言ってあげられなかった。 胸の中で複雑な色を織り交ぜながら、私は病室を後にした。
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