ラヴ・アンド・シャープシューター

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PSO-1スコープ越しに見る米軍兵士は、暇そうにガムを噛んでいる武装した白人でしかなかった。 協力者の所有する住宅の二階で、軍隊式の伏射姿勢――簡単に言うと、伏せの状態で足を開く――をとっているモハメドはそう思いながら、セミオートマティック狙撃銃、ドラグノフを構え直した。 そのドラグノフは、彼の父がソ連のアフガニスタン侵攻時に鹵獲したものだったが、鹵獲品のドラグノフにしては、比較的状態が良い代物で、今では中身が多少――ファイアリングピンはロシアから取り寄せた新品である――入れ変わっているが、ほぼ純製品で組まれてあった。 一方、射手であるモハメドは、右手の人差し指で引き金を触り、左手を骨抜きのスケルトン・ストックの上に置き、頬当ての代わりにしている。 元々このドラグノフには、頬当てが付属していたのだが、固定金具にガタがきていため、三か月前に外したのだ。 「大丈夫か、モッハメドゥ」 狙撃態勢のまま待機するモハメドに観測手のゲパルトがドイツ訛りのイスラム語で言った。 白い布を顔に巻いているため、表情は分らないが、奇妙に細くなった碧眼から察する限り、楽しそうに笑っているのだろう。 「無理してイスラム語を使わなくて良い。ドイツ語で話してくれ」 「ヤーヤー(了解了解)」 乾いた唇だけを動かすモハメドにゲパルトは静かに頷いた。 生粋のドイツ人であるゲパルトは、察しの通り偽名であり、本名はモハメドも知らなかった。 けれども、頭でっかちな白人にしては中東の武装勢力に協力的で、これまで三輛のハンヴィーを簡易爆破装置(IED)で爆破し、四人の米兵を狙撃して殺した戦士だった。 対するモハメドは肌の赤茶色いアラブ人で、ある程度の狙撃訓練と三度の実戦を経験し、十七名の米兵を狙撃で射殺していた。 そして今回、モハメドのスコアは十八に増える予定である。 些細なミスさえしなければ、その予定はあるていどの危険と共に達成される。
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