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その声に振り向くと、そこには一人の女がいた。
柔らかなウェーブのある銀髪をたなびかせ、俺の視線に怯むことなく傲然と見返してくるその視線には俺といえども感嘆を禁じえない。
年齢的には俺と同じくらいか…高い魔術的素養を持っているのか、その周囲には吹き荒れるような魔力が停滞しており、女を守っている。
――ほう、中々いい女じゃな
いか…。
精巧な人形を思わせる相貌だけでなく、纏っている『強い者』の雰囲気も俺好みである。
間違いなく、この女は俺の目的の人物だ。俺は理屈でないところでそう確信した。
しかし、納得いかない事が一つだけある。
これほどの女が父親の仕業とはいえ、周囲からの汚名をみすみす見逃すだろうか?
この女ならば、実の父親でさえその手で縊り殺してもおかしくはないはずである。
「初めまして、俺は安達棗。お前の名は?」
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。わたくしの名はフローラ・エル・ジャルバーンですわ勇者様」
そう言いながら着ている水色のドレスの裾をつまんで軽く礼をする。その様は実に様になっていて、彼女の美しさを引き立て育ちの良さを感じさせた。
「ところで勇者様。わたくしの従者の命、見逃していただけませんか?」
それは言葉通りのお願いではなかった。
俺が断れば即座に俺を攻撃するだろうことが魔力の流れと女の力強い瞳から感じられる。
「条件がある」
俺はそのフローラの態度に言葉にできない歓喜を覚え、しかし気取られないように冷静に言葉を紡ぐ。
「お聞きしましょう」
「お前を抱きたい」
まどろっこしいのは嫌いなので、俺は本心を口にする。それほどの俺はフローラに惹かれていたのだ。無論、それは恋愛などという甘いものではないのだが…。
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