167人が本棚に入れています
本棚に追加
「………」
「アル…ガット…?」
「旦那様の…お部屋です…」
「ッ!!」
「お嬢様!?」
私は駆け出した。
魔法で身体能力を上げ、風魔法で足音を殺す。
お父様…お父様…お父様!!
お父様の書斎まで来ると、多数の話し声が聞こえる。
私はほんの少しだけ冷静さと恐怖を思い出し、とりあえず、書斎のドアをほんの少しだけ開けてみる。
そうよ…ね。お父様はご友人と談笑されているだけよ。
私ったら慌ててみっともないわ。
そう自分に言い聞かせながら、ドアの向こうの光景を見る。
そこには――
「――い――」
悲鳴を上げようとする私の口が暖かい手で覆われる。
誰かは分かっていた。
「お嬢様!!」
声なき悲鳴を上げ茫然としている私を抱きしめる腕。
涙が溢れた。
私はアルガッドの胸に顔をうずめがら泣いた。
しかし消えないあの光景。
手足を切り取られ、目をくり抜かれ、床に散らばっていたのは白いお父様の歯。
最後に奪われたであろう首から上は絶望と恐怖に歪んだ人とは思えぬ表情。
血にまみれ、この世のすべてを呪わんとする呻きが今にも聞こえてきそうだった。
その部屋には数人の男がいて、その誰もに共通していたのは、鋭く尖った耳。
最初のコメントを投稿しよう!