非現実的な人の現実逃避

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ぎゅうっと締め付けたまま、彼は急にしゃべり続けたのだ。 今もまだぶつぶつ言い続けてる。 なんだか、彼は最近、感情的になりやすいようだ。まぁそれもわたくしのせいですけどもね。一方的な感情論と尤もらしい意見で私に悲願する彼は、やっぱり出会ったころよりも意地悪で、時に弱く、ほんの少しだけ、儚くなっていた。 『お願いだから、もう、』 『あぁはいはい、わかってますよ。もうどっかに行ったりしないよ。もういっそのこと鎖に繋いで檻に入れちゃえば?』 『あ、それ、いいかも』 『本気で考えるな。』 彼も私もまだ子供。 現実の辛さは星の数ほど。傷の深さは深海の奥底ほど。闇の暗さは彼の瞳ほど。 億千万という人の中で、私が彼に出会った幸福と彼が私に出会った不幸。皮肉にも、その運命は決まっていた訳で。
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