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これがなによりもミステリー。僕はあの美女の顔も、服装も、体型も、その他いろいろ気になるところも、視覚的な像がまったく思い出せないのだ。
僕は彼女を《美女》という言葉としての印象でしか記憶に留めておけなかった。あれま、これはいけない。職業的にも、記憶力は比較的重要な要素だというのに。
そこで僕は、彼女に《クレオパトラ級》という名前をつけておくことにした。象徴としての美女。絶世の。無敵の。
彼女の美女性を、この名前に集約しておく。僕は彼女を忘れてはならない。絶対に。
もちろん、スケベ心でじゃない。あのクレオパトラ級は存在がしてすでに非日常だ。非日常的キスから幕を開ける物語は、大抵シュールでバイオレンスに決まってる。
綺麗な薔薇には棘がある。綺麗でない薔薇にだって棘があるくらいだ。
クレオパトラ級の棘なんて、刺さったらきっと、痛みを感じないうちに昇天させてくれるに違いない。
ロココの懸念と一緒だ。その実、僕はクレオパトラ級をロココ以上に危惧している。
『ペッ!』
ひょっとしたら、棘はもう、刺さっているのかもしれない。
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