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この躰が消えたなら、きっと魔導は殆ど機能しなくなるかもしれない。それでも、この命をあの男に…そう願ってしまう。何と愚かしい。
「ネフィリム」
甘やかな声が名を呼ぶ。その声に紡がれる名は特別。心に愛おしさが洪水の様に溢れ、そのまま決壊し、ただ男へと…男だけへと総てが流される。
「アキレス…」
嗚呼、男の瞳に焔が揺れている。憎悪、愛情、戸惑い。男が見た己の瞳も同じ焔に揺れているのかと思うと滑稽さに笑いが止まらなくなりそうだ。
「アキレス。余の首、貴様へとやろう。但し、交換条件だ」
近付く足音。男の剣が我が命欲しさに鳴く。その剣に貫かれたく、我が命が鳴く。
「貴様の命、余に寄越せ。心の臓貫いてやる」
さあ、二人きりの愛と欲に塗れた命の奪い合いでも始めようか。行き着く先は地獄と決まっているが、恐ろしくはなかろう。二人で叩く死の扉。紅く血塗られた扉先、待つのは楽園。重なる体は紅に濡れ、互いに持つのは互いの心臓。片時も傍を離れられぬ様、城を焼く業火よ我らの形を遺さぬ様総て焼き払え。
end.
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