嗚呼、我が愛しの陛下。

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  姿の見えぬお人。戦場へと出向かれた御様子も無く、会議室の上座は藻抜けの殻。各自書類を捲るだけの音だけが響く中、試しに名目だけは会議中の今、ワインを開けても飛んでくるのは最凶魔導師の罵声だけで、酷く辛辣な静かな声は聴こえない。嗚呼、本当に何処へと行かれたのか、我が愛しの陛下。誰に訊いても知らぬ存ぜぬ、兵士の中にはあからさまに顔を背け逃げる者も居るというのに。最凶魔導師の声が止んだかと思ったら次の瞬間酷く乱暴に会議室の扉が開かれた。何事かと視線を向けた先には、我が愛しの陛下。が、何故か敵国王に担がれているお姿。その人は敵国の将軍の揃ったこの場で視線を一身に受けても怯む事無く真っ直ぐと上座へと進んだかと思えば、我々の椅子より柔らかな其処へあろうことか陛下を投げ捨てた。良い覚悟だ此処でその首落としてやろう。そう思ったのも束の間、目の前で深く唇を重ねる二人。最凶魔導師とイかれた医者の二人は体ごと明後日の方向を向いている。 「失礼した」 凛とした声に現実に引き戻された。敵国王は何事も無かったかのように、ましてや此処が彼にとって敵国だという事実が無いかのように、乱暴に開け放ち入って来た会議室を後にしていく。 頬を赤らめ、指先で唇に触れ、ぼんやりと会議室の扉を見詰める我が愛しの陛下を残して。 end
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