◆会

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「長くないって……」 裕子は言いかけて言葉が止まった。壁にかけてある時計の秒針が煩い。 初代は目を軽く伏せて昔の話を始めた。 それは亜紀がまだ二歳の頃の話である。亜紀の父は不幸にも事故で亡くなってしまい、彼女は途方に暮れていた。頼れる身内はいない、残されたお金はごくわずか、幼い子供を抱えて働くには限界がある。 『……ねぇ、亜紀』 『なぁに、おかあさん?』 亜紀は死んだ父の傍らでいつものように着せ替え人形で遊んでいた。 『……一緒に死のうか?』 『…。うん!しのうよー!』 死の意味を理解出来ない子はただ単に一緒にという言葉に反応して喜んで抱きついて来たのだった。 「子供って……その時、怖いなって思いました。死のうってあんなに喜んで言われるとは思わなかったので…」 初代は少しだけ困ったような顔をする。
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