赤頭の腕相撲

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「赤頭は凄く力持ちなんだ。最近の人のうつろいやすさに寂しくなって、墓場から出てきたのかもね」 「は、墓場から…って……」 「基本、赤頭は墓場に出るからね。学校に出るなんて初耳だけど……特徴から考えられるのはそれしかないし」 悪さはしないだろうけど、混乱は招きたくないよねえ。 そう言って、藤火さんはにっこりと笑った。 「三日後」 「はい?」 「三日後に赤頭に会いに行くよ」 何故、三日後。 疑問を顔に出した啓大に、藤火さんは意味有り気な微笑みを向けてから、私に視線を移した。 まるで心を見透かしているかのようなその視線に耐え兼ね、思わず顔を俯かせてしまう。 「……頑張ってね」 藤火さんはそれだけ私に囁くと、パンパン、と手を打ち鳴らした。 瞬く間に部屋の中に煙が広がり、その中から送り狐が姿を現す。 流石妖怪狐、こんなマンガみたいな登場もするんだ。 (あれ、もしかして私何か非現実に慣れてきた?) 啓大が送り狐をじろじろと眺めている横で、地味にショックを受ける私。 それを知ってか知らずか、藤火さんはおかしそうに笑って手を振った。 「送ってあげて」 「はい。ささ、お二方、此方へ」 「あ…ありがとうございます」 「夜道に気を付けてね」 その後は、送り狐に送ってもらったおかげか、びっくりするほどすんなりと帰路につくことが出来た。 また用事がある時は呼んで下さい、迎えに行きます。とか言ってたけど、どう呼んだらいいのかな。 送り狐さーん、とかって叫べばいいのかな。 「……麻実」 「んん?何?啓大」 「夢じゃ、ないよな」 「……うん」 今頃になって心臓がドキドキしてきた。 裏山の住人。 妖怪。 送り狐。 赤頭。 ―――そして、藤火さん。 「……非現実だ」 「内緒だぞ、この事。他の奴等には」 「分かってる。これはきっと広めちゃいけない噂だから」 噂と言うより、真実だけど。 きっと話したところで面白半分に裏山の家を目指す人は、一生かかっても彼処へは辿り着けない。 案内役の送り狐が迷い子と判断して、送り返してしまうから。 「……三日後、かあ」 ―――彼と話すチャンスは、三日しかないんだ。
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