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どこにでもいるような、私たち。
高校通って、友だちとダベって、携帯つついて、それなりに授業受けて。
将来なんてまだそんなに考えてない。だって、今が一番大事なんだもん。
そんな私たちの変わらない日常にその人物が現れたのは、もう一週間以上前になる。
「あれ、また来てる」
私は校庭を覗いてそう呟いた。
放課後の校庭には部活に精を出す生徒が集結して、各々トレーニングに励んでいる。
私の視線はそんな頑張り屋さんたちではなく、校庭の一角、砂場の近くに固定されていた。
「麻実、何見てるんだ?」
「啓大か。……ほら、砂場」
「あ?また来たのか、あいつ。何で先生たち注意しないんだろうな」
「それが不思議よね。先生たち皆、彼を見てないって口を揃えて言うんだよ」
幼なじみのしかめっ面を横目に、私は校庭に目を凝らす。
(そう。不思議)
真っ赤に燃えるような赤い髪を束ねたその青年は、いつも放課後になるとどこからかフラリとやってくる。
砂場に佇み部活の様子を見て帰る時もあれば、何故だろうね、おもむろに生徒へと声をかけ腕相撲をしてくれと頼むのだ。
声をかけられた方も、何で断らないんだか。
しかしまたこれも不思議。
後からその生徒に聞いてみても、腕相撲はおろか彼に会ったことさえ覚えていない。
「何なんだろうね彼。もしかしたら幽霊なのかも」
「こんな時間に堂々と出てくる幽霊がいるかよ、バーカ」
まあ、ごもっとも。
格好も着物とかそんなおどろおどろしいものじゃなくて、普通にジーンズとパーカーだし。
「でもさ、おかしいじゃん。私たち以外にも彼を見たって人はたくさんいるのに、接触した人は皆…彼のことを覚えてないなんて」
「俺のことは忘れて~、とか、頼んでるんじゃね?」
「何で?先生にも?」
「……それを聞かれると、つらい」
彼は不思議。
そう、不思議。
赤い髪は風になびいてサラサラ揺れて、その下にある顔はまるで芸術みたいに綺麗。
「人間かな、本当に」
「よせよ」
「裏山の住人だったりして」
「……まさか」
私の冗談に、ははは、と啓大が笑う。
でも目は笑ってない。
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