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「懐中電灯なんて、役にたたないね」
夜、誰もいなくなった校庭を突っ切り、私と啓大は裏山に足を踏み入れた。
人気のない山道を歩きながらぼそりと呟いたら、声がちょっと震えてしまった。仕方ないよね、だって怖いんだもん。
「何で夜なのよ~」
「仕方ねえだろ、夕方だと赤髪がいるから山行ってんのバレるし」
校庭から裏山は丸見えだから、啓大の言い分も分かるけど。
夜の山道は怖い、街灯が無い上にやたら静かなのだ。
ザクザクと枯葉を踏む音、それから私たちの息遣い。
それくらいしか聞こえない。
「ね、ねえ。やっぱり帰ろ。無理無理、やだ、怖いもん」
「今さらだろ?大体、あんな怪しいやつに学校で好き勝手されんのが、俺は気に食わねえ」
「でも…………」
「確かめるんだ、必ず」
啓大は懐中電灯を片手にどんどん前に進んでいく。
私はただその背中に着いて行くのに必死。
ああもう、何であの時頷いちゃったんだろう。
啓大の意見に賛成だったから?
謎の彼について知りたかったから?
きっと、どちらもだ。
「……家、着かねえな」
考え事をしていたら、不意に啓大が立ち止まった。
同じく足を止め、そう言えばと周りを見渡す。
だいぶ登ったはずだ。念のため携帯のGPS機能も使ってるから、方角も間違ってないし。
(彼処、絶対にたどり着けないんだって。肝試しした人たち皆道に迷って帰って来たって)
(道に迷ったのに、よく帰って来られたね)
(ねー、不思議だよね)
ぞくりと、嫌な予感が頭を過る。
絶対にたどり着けない家。
噂を聞いた時はどんだけ皆方向音痴なんだ、って思ったんだけど。
どうやらマジらしい、ごめんね迷った人たち。
「……おや、迷子ですね。まだ夏ではないのに珍しい」
その時だった。
狼狽している啓大と、呆然としている私の背後から、柔らかい口調で声がかけられたのは。
驚いて声も出ないとはこの事らしい。私はパクパクと口を開閉し、隣の啓大の袖を思わず握りしめた。
(もしかして、赤髪の彼!?)
私と同じことを考えたらしい啓大が、私の手をしっかりと握って懐中電灯を背後へと向ける。
同時に振り返った私たちの視界に映ったものは……、にわかには信じられないものだった。
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