赤頭の腕相撲

5/38
前へ
/45ページ
次へ
「懐中電灯なんて、役にたたないね」 夜、誰もいなくなった校庭を突っ切り、私と啓大は裏山に足を踏み入れた。 人気のない山道を歩きながらぼそりと呟いたら、声がちょっと震えてしまった。仕方ないよね、だって怖いんだもん。 「何で夜なのよ~」 「仕方ねえだろ、夕方だと赤髪がいるから山行ってんのバレるし」 校庭から裏山は丸見えだから、啓大の言い分も分かるけど。 夜の山道は怖い、街灯が無い上にやたら静かなのだ。 ザクザクと枯葉を踏む音、それから私たちの息遣い。 それくらいしか聞こえない。 「ね、ねえ。やっぱり帰ろ。無理無理、やだ、怖いもん」 「今さらだろ?大体、あんな怪しいやつに学校で好き勝手されんのが、俺は気に食わねえ」 「でも…………」 「確かめるんだ、必ず」 啓大は懐中電灯を片手にどんどん前に進んでいく。 私はただその背中に着いて行くのに必死。 ああもう、何であの時頷いちゃったんだろう。 啓大の意見に賛成だったから? 謎の彼について知りたかったから? きっと、どちらもだ。 「……家、着かねえな」 考え事をしていたら、不意に啓大が立ち止まった。 同じく足を止め、そう言えばと周りを見渡す。 だいぶ登ったはずだ。念のため携帯のGPS機能も使ってるから、方角も間違ってないし。 (彼処、絶対にたどり着けないんだって。肝試しした人たち皆道に迷って帰って来たって) (道に迷ったのに、よく帰って来られたね) (ねー、不思議だよね) ぞくりと、嫌な予感が頭を過る。 絶対にたどり着けない家。 噂を聞いた時はどんだけ皆方向音痴なんだ、って思ったんだけど。 どうやらマジらしい、ごめんね迷った人たち。 「……おや、迷子ですね。まだ夏ではないのに珍しい」 その時だった。 狼狽している啓大と、呆然としている私の背後から、柔らかい口調で声がかけられたのは。 驚いて声も出ないとはこの事らしい。私はパクパクと口を開閉し、隣の啓大の袖を思わず握りしめた。 (もしかして、赤髪の彼!?) 私と同じことを考えたらしい啓大が、私の手をしっかりと握って懐中電灯を背後へと向ける。 同時に振り返った私たちの視界に映ったものは……、にわかには信じられないものだった。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加