赤頭の腕相撲

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「……狐?」 まあ、あれだ、赤髪の彼じゃないことは確かだった。 着物を着た狐が、微かな灯りを放つ提灯を手にしている。 「…………」 「……」 どうしよう。 私、幻覚でも見てるんだろうか。 隣の啓大の様子をチラリと見てみた。 ……見事に硬直している。 「……肝試しではないとしたら、お客様ですかね。人の子」 「…………は?え、私っ…?」 そのまま二人して固まっていたら、痺れを切らした狐が私の前まで歩いてきたではないか。 しかも話しかけてきた、流暢な日本語で。 思わず返事をしたら、狐は「はい」と私の反応に満足そうに微笑んだ。 狐って……、笑うんだ。 「最近の狐は……二足歩行で喋るのか」 どうやら啓大は別のことに感動していたらしい。 確かに、と頷いたら、目の前の狐は細い目を見開いて驚いた様子で口を開いた。 「狐ですって、まあ、冗談じゃないですよ。私は確かに狐ですがただの狐じゃありません。藤火さまに遣える送り狐にございます!」 「は、なびさま?」 「はい。貴方たちは裏山の藤火さまに依頼をなさりにきたのでしょう?」 もう何が何やら分からない。 分かるのは、この狐はただの狐じゃないってことと、裏山の住人の名前が藤火ってことだけ。 「ささ、どうぞ」 狐は尻尾を振りながら、私たちを誘導するように歩いていく。 「啓大……」 「行くぜ、俺は。ここまで来て引き下がれるか」 狐の後を追う啓大の後を追い、私も歩きだす。 本当は行きたくないよ、怖いし。 けど啓大が行っちゃったら私は一人になってしまう、それはもっと怖い。 この時、私の頭の中には学校で囁かれている噂がぐるぐると回っていた。 山姥、鬼、幽霊。 ……無事に帰れたら、案内役の狐がいるって噂も流しとかなきゃ。 「着きましたよ、では、私はこれにて」 狐は私たちに一礼して、また山の暗闇へと戻って行った。 取り残された私たちの目の前に佇んでいるのは、あの、誰もたどり着けなかった家。 中からは灯りが漏れていて、誰かがいることが分かる。 取り敢えず幽霊屋敷っぽくなくて良かった、少しは怖さ半減だ。 「……開けるぞ」
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