赤頭の腕相撲

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啓大は私に確認を取ってから、勢いよく目の前の扉を開いた。 驚くほど簡単に開いたドアの向こう、暖炉の炎に照らされている人影が、真っ先に目に入る。 「……赤髪?」 赤く光る、髪。 けど違う、これは「彼」じゃない。 暖炉の炎に照らされたその人の髪は赤く見えたけど、目を凝らせば元の色が白だと分かる。 瞳だけは暖炉の炎に関係なく真っ赤に染まっていた。その真っ赤な綺麗すぎる目が、ゆっくりと、こちらに向けられる。 「…………」 息が止まった気がした。 白い顔に隠されていた顔は、まるでよく出来た蝋人形みたいだった。 白くて綺麗で西洋のお人形みたいな、少しゾクリとする顔。 だけど服装はシャツに黒いタイトなズボンと、実にシンプルだ。 (そう言えば) 不意に、噂の一つを思い出す。 裏山の住人は「この世の美を集めたような美しい女」なのだと。 しかし、残念なことにこの噂は微かにハズレた。 何故なら目の前にいる美の化身は男性だったからだ。 「……珍しいね、人間が来るなんて。さあ座って座って」 啓大と二人してボーッとしていたら、彼はおもむろに部屋の電気をつけてにこやかにそう言った。 あ、電気通ってたんだ、と密かに感動しつつ、言われるがままに近くのソファーへと腰を下ろす。 彼は赤い瞳で私と啓大を交互に見、それから美しく微笑を浮かべた。 「……そんなに怖い顔しないでよ。僕は藤火、君たちの名前は?」 「わ、私は……麻実です。東野麻実」 「西宮、啓大」 「そっか。麻実ちゃんに啓大くんだね」 よろしく、と言って笑う彼は綺麗すぎてこの世の者とは思えない程だけど、不思議と怖くはなかった。 幽霊とか化け物とか、そんなおどろおどろしい者じゃなくて、そう、神聖な何かのように見える。 「あの……藤火、さん」 「何だい?」 「あなたは神様なの?」 隣にいた啓大が、ブッと吹き出す。 自分でも驚きだ。初対面の人にこんなこと言っちゃうなんて。 藤火さんはパチパチと目を数回瞬かせた後、啓大とは別の意味で吹き出したようだった。 クスクスと堪えきれない笑みを溢しながら、涙目で私を見る。 「僕が神様?まさか!そんなわけないよ、ただの人間」 「あ……、えっと、……」 「ああ、見た目は生まれつきだよ。だから日中は中々外に出られなくてね」 「は、はあ……」
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