赤頭の腕相撲

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聞いてもないのに自分のことを話し出した藤火さんに、啓大も私も目を丸くする。 随分あっさりと、人間だと言われてしまった。 今まで流れていた噂がガラガラと音をたてて私の脳内から崩れ落ちていく。 「……君たちはそれを聞きに此処へ?」 藤火さんはひとしきり小さく笑ったあと、私たちへ静かにそう問いかけた。 私よりも早く啓大がそれに反応し、首をゆっくりと横に振る。 「……聞きたいことが山ほどあります。順番に聞いても構いませんか」 「僕に答えられることなら、何でも」 「まず、あの狐は一体?」 そう言えば、あの狐は藤火さんのことを藤火さまと呼んでいた。 狐、という言葉に目を細めた藤火さんが小さく「ああ…」と呟く。 「彼は送り狐という妖怪だよ」 「……妖怪?」 「そう、妖怪」 「…………妖怪」 まさか、いや、でも。 呆然とした様子でぶつぶつと呟く啓大だけど、私も藤火さんの言葉に驚いて言葉を発せずにいた。 妖怪。妖怪なんて、ファンタジーな。 幽霊は信じてた。けど、妖怪の存在は信じてなかった。 いきなり目の前に非現実な存在を叩きつけられ、目眩が起こる。 けど、私たちには確かに見た。 二足歩行で歩き、喋る、大きな狐を。 「彼は悪さばかりしててね。イラっとしたから化けの皮を剥がしてやったんだけど、それから何故か僕を慕って離れてくれないんだ」 まあ、案内役にはちょうどよかったけど。 そう言ってから、他には?と藤火さんが先を促す。 啓大はハッと我に帰って、慌てた様子で再び口を開いた。 「ふっ、二つ目…に」 「うん?」 「あなたは何故此処に?むしろ此処は一体……」 啓大は歯切れ悪くそう言い、黙った。 啓大が言葉を発した瞬間、藤火さんが盛大に顔をしかめたからだ。 何かまずいことを言っただろうか。啓大が発した言葉を頭の中で繰り返すけど、何がいけなかったのか全く分からない。 藤火さんはため息をつくと困ったように眉を八の字にした。 「……君たちは依頼人?」 「い、依頼?」 そう言えば、送り狐もそんなことを言っていた気がする。
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