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「……質問に答えようか。此処はね、妖関係の問題を解決する為の万屋なんだ」
「あやかし…妖怪のことですか?」
「そう。彼らと意志の疎通が出来る人間って少ないから、誰かが仲裁に入らなきゃ問題が解決しないんだ。……送り狐には万屋への依頼人だけを此処へ連れてくるよう頼んでたんだけど」
そこまで言い切ってから、藤火さんは立ち上がった。
暖炉のそばに歩いていき、燃え盛る炎に視線を集中させている。
何をやっても綺麗な人って本当にいるんだ、なんて。
次々と非現実的なことを突きつけられた頭は現実逃避を起こしてるみたいだ。
「……送り狐に送らせるよ。君の学校の子たちは毎年肝試しをしに山へやってくるから、夏は気をつけてたんだけど…今年はこんなに早いなんてね。……油断してたよ」
「…ち、ちが……」
「好奇心なら結構。依頼人じゃないなら帰ってもらうよ」
「違います、って…ば!」
「?」
「違います!あの、私たち、肝試しじゃありません!」
失望した様子でこちらに視線を移した藤火さんに、私は思わず大声をあげていた。
ビクリ、と驚き肩を跳ねさせた藤火さんはまじまじと私の顔を見つめている。
啓大も慌てて私に同意するように頷いて、口を開いた。
「俺たちの学校で、おかしなことが起きてるんです」
「……どんなことかな」
啓大が言葉を発した瞬間、藤火さんの顔色が変わった。
目をスッと細め、顔からは完全に笑みが消えてしまっている。
そんな表情に少し気圧されながらも、啓大は再び言葉を発した。
偉い、偉いよ啓大。
綺麗な人って、無表情だとやたら怖い。
啓大は近頃現れるようになった赤髪の彼のことを事細かに藤火さんへと伝えた。
最初こそ険しい顔だった藤火さんだけれど、啓大の話を聞いている内にその表情は和らぎ、最後には当初の笑みを浮かべるようになっていた。
ふふ、と、何がおかしいのか鈴のような綺麗な声で笑い、私たちに視線を向けてくる。
「それはたぶん、赤頭だね」
「そりゃ、赤い髪ですし」
「違うよ。赤頭って名前の妖怪」
「…………はあ」
また妖怪か。
でも、私たちは一度本物の妖怪を見ている。
今さら彼の言葉を信じないわけにもいかず、私と啓大は曖昧に頷いて互いに顔を見合わせた。
彼は、妖怪。
妖怪、…だったんだ。
赤い髪のかっこいい青年。
腕相撲で負けたところは一度も見たことがない。
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