踏み出す勇気

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「んー……」 本棚に並ぶ本を見つつ、鳴海は難しい顔で唸る。 当初の目的は本を買う事、それを思い出した鳴海は早速買おうとしたのだがどれを買うかで悩んでいた。 「そんなに迷う事か?」 隣で鳴海の様子を伺う朱音が思わず尋ねてしまう程に時間が過ぎている。 「その、どれも気になるものなので迷っちゃって……」 ちなみに選んでいる本のジャンルは料理本。 弁当のおかず、家庭での一品、和洋中、デザート、種類が豊富の為迷うのは必然ではある。 「そういうもんか? まぁ私は鳴海が作るもんなら美味いから文句ねぇけどな」 「ふふっ、ありがとうございます。 けどせっかく食べて貰うならやっぱりレパートリーを増やしたいんですよね」 「なら買うんじゃ無くてレンタルすれば良いんじゃない?」 ふと鳴海に声が掛けられた。 振り向くと、レジに戻っていた筈の愛理が鳴海の直ぐ傍に立っていた。 「レンタルって、普通の本屋ではやって無いですよね?」 「このお店、正直来るお客さんって結構限られてるのよ。 一応揃えてはいるけど、その限られたお客さんで料理の本を買う人はいないし汚さず綺麗に返してくれるなら全然構わないわよ? 私も良く小説とか借りてるもの」 「……確かに、借りれるなら出費も無く済ませる事が出来ますし、どれを買うのか選ぶ必要も無いですもんね」 「そういう事、どうかしら?」 「……えっと、ではお願い出来ますか?」 「全然構わないわよ」 「ありがとうございます!」 そうして選んだのは『弁当のおかず百選』という題名の本。 それを愛理は受け取るとレジに持って行き、専用の紙袋に入れて戻って来る。 「はい、じゃあこれね」 「本当にありがとうございます、読んだら直ぐに返します」 「別にそんなに急ぐ事も無いわよ? さっきも言ったけど買う人はいないし、満足するまで読んでからでも大丈夫」 「そう、ですか? でも他の本も読みたいので、やっぱりなるべく早く読みます」 「まぁ、鳴海君が良いならそれで構わないけど」 苦笑する愛理から本を受け取り、鳴海は持って来ていたバッグに本を仕舞う。 「ん、終わったのか?」 「そうですね、帰りに買い物するつもりだったのでスーパーにだけ寄って行きますけど」 「お、今日は何作るんだ?」 「そうですね……この前は親子丼でしたから、今日は魚が安かったら魚にしようかと思ってます。 他にも買い足すつもりでしたけど」 「んじゃせめて荷物持ちぐらいはするから早いとこ行こうぜ」 「はい、じゃあ愛理さん、本当にありがとうございました」 愛理へと再度頭を下げて帰ろうとする鳴海とそれに続く朱音だが、そんな二人を愛理が呼び止めた。 「ちょっと待って、貴女今日も鳴海君の家に行くの?」 「あ? 何か文句あんのかよ?」 「そう言うって事は行くのね……へぇ……」 何やら考え込む愛理、その反応に首を傾げる二人。 「……ねぇ鳴海君、私もお邪魔しても良いかしら?」 「「えっ!?」」 思わず二人は目を見開き、驚きの声が重なった。 「待て待て! 何でてめえが鳴海の家に来るんだよ!?」 「あら、私は鳴海君に聞いてるのよ? 家主でも無いのに貴女にとやかく言われる筋合いは無いけど?」 「ふざけんな! おい鳴海! さっさと断れ!」 「えっ? いや……」 鳴海は二人の会話に困った様に頬を掻いた。 「僕は別に構いませんけど、愛理さんは店番があるんじゃ?」 「今日は元々昼までだったからもう終わりよ、直ぐに祖母が帰って来るから」 「それなら大丈夫ですよ?」 「はぁっ!? マジで言ってんのか!?」 「その、せっかく食べるなら人数は多い方が良いですし、愛理さんとも仲良くなれたんですから朱音さんも仲良くしませんか?」 朱音を宥める為にそう言う鳴海に、朱音は二人の顔をしかめっ面で交互に見る。
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