‡入学式‡

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「あっ…」 どうやら屋上に自分以外の人がいた事に驚いているのは俺だけじゃないらしい 彼女は何か見定めるように俺を観察して、しばらく視線が絡み合う 「……///」 やべぇ…どうすりゃいいんだこの状況… 何か話しかけた方がいいのか? 無視する訳にもいかねぇもんな… よし…! 高鳴る鼓動を抑えつつ、軽く咳払いをし声の調子を整えて、俺は一つ質問した 「…お前、どうして屋上に来たんだ?」 …ほんとはもっと聞きたい事があったんだが… まぁ、とりあえずこれから聞いてみる事にする 「………静かだと思ったから…」 小さな口から紡がれる綺麗な声が、俺の耳に届く 「…静かな所が好きなのか?」 「ええ…」 …この子…緊張してんのかな? さっきから小さな声で短い返事しかしない… …無理もないか…いきなり知らない男子に話しかけられたのだから… そんな事を考えていた俺だが、どうやら予想は外れたようだ 「だから、あたしの邪魔はしないでよ」 「…は?」 次に少女から返ってきた言葉に自身の耳を疑う 邪魔…? 呆気にとられる俺には全く興味なさげに、彼女は屋上の隅の方に移動すると座りこんだ そして鞄をあさり分厚い本を取り出してそれを読みはじめる …読書の邪魔をするなって事か? だけど鍵は俺が持ってるし、先に帰って扉を閉めたら彼女を閉じ込める事になってしまう …それは流石に出来ないだろ? 「………」 俺は、何も喋らないで黙々と本を読み続ける少女に視線をあわせる 風に吹かれてサラサラ靡く綺麗な髪 細められた瞳から覗く深緑が俺の心を乱して、どうしようもなく彼女を愛おしく感じた 邪魔するなとは言われたが… このまま簡単には引き下がれない コツ…コツ… ゆっくり…ゆっくりと座り込む少女のもとへと足を運ぶ 真横まで来ても、彼女はなんの反応も示さない 試しに隣に座ってみた チラリ… 一瞬だけ視線をこちらに向けたあと、眉にシワを寄せる どうやら、邪魔だと思っているらしい 「…お前、名前は?」 「…人に名前を尋ねるときは、まず自分から名乗るものじゃない?」 本のページを一枚捲りながら、彼女はいかにもめんどくさそうに、顔もあげず返事をする ほぅ…なかなか口が達者なお嬢さんだな… だけど、ここで退いてやるほど俺は優しくないんでね…
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