‡入学式‡

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「あっ、あたし!部屋に戻るからっ」 「…分かったわ…」 姉が頷いたのを確認してから、あたしはすぐ隣の階段をかけあがる 自分の部屋は二階にあるから、ここの登り降りはもう慣れたもんだ あたし達の家は2人暮らしにしては大きい方で、部屋は少し広すぎるくらい… 故に、電気代やガス代などの家賃も普通より多い でも、お金は今のところ両親が残していった財産とあたし達2人の奨学金で特に問題はないんだけどね… バタン… 自室の扉を閉めて、本が乱雑しているベッドへとダイブする 今日はなんだか疲れた… むくりと上半身だけを起こして、あたしは見慣れている部屋を見渡す 部屋中に散らばっている様々な種類の本… 壁には所狭しと貼り付けられているメモ書き… おまけにベッド脇の窓から差し込む光が、イヤミのようにそれらを照らしていた 他人が入ってきたら思わず眉を潜めたくなるほど酷い惨状の部屋だが、あたしはこの程度ちっとも気にならない 掃除は一応しているから、衛生面でも問題は無いはずだし 「そういえばあいつ…整理整頓とか苦手そうだな…」 ユーリがもしもこの部屋に来たらどうなるかな? …案外リアクションは薄そうな感じがするわね… 脳内で繰り広げられる彼との会話… その中のあたしは満面の笑みでユーリとの話を楽しんでいた… ††††††††† 「ただいま、ラピード」 「ワン!」 俺は家の玄関に立ち入りながら、飼い犬に挨拶をした にしても…まいったなぁ… 下校の道中、俺はずっとリタの事を考えていた それで、知らず知らずのうちに明日の学校が楽しみになっていたのである 学校が楽しみなんて俺の中では未だかつて無いことだ フレンにこんな話したら、多分驚きで腰抜かすな… 俺はラピード以外誰もいない静かな家の廊下を歩きながら、真面目に学校に通う自分の姿を想像し思わず吹き出す 「…やっぱ人生何があるか分からないもんだな…」 少し大げさな気もしたが、俺は自身の言葉に納得して自室のベッドに座った なんか疲れたからちょっと休憩するか… 横になり瞳を閉じてみると、瞼の裏側に焼き付けられていたかのようにリタの笑顔が脳裏をよぎる 早く彼女に会いたい そう思いはじめた俺は、気付かぬうちに笑みを浮かべていた… この日を境に、2人の退屈でつまらない日常は大きく変わっていくのでした…
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