遺影

3/31
477人が本棚に入れています
本棚に追加
/630ページ
 そして何より、奈美枝と村田の誰にも悟られる事のない関係があったから、奈美枝は夫を伴わずに村田を見送りたかった。  飾りのような妻としてだけの奈美枝から、一人の女としての奈美枝を取り戻させてくれた村田への、感謝の気持ちを伴って見送りたかった。  そこに夫への罪悪感がなかったといったなら、嘘になるだろう。肌を合わさない事を除いたなら、良いバートナーなのだから。その夫から仕事で出席出来ないと聴かされた時、奈美枝は胸を撫で下ろす思いだった。  火葬場へと付き添う事も出来たが、人が人でなくなった村田の姿など、見たいとは思わなかった。年齢は行ってたとはいえ、奈美枝を力強く抱き締めた男の身体を覚えていたい。奈美枝の身体の上で、奈美枝を見つめていた男としての村田の表情を、覚えていたかったから……。
/630ページ

最初のコメントを投稿しよう!