相思

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 西陽のあたる店先には、赤や黄色や緑色のカラフルなパッケージ片手に、小学生の子供達の笑顔があった。ひとつ数十円の駄菓子で笑顔になれたのは、何歳くらい迄だっただろうか。  スラックスの尻のポケットから財布を取り出し、小銭が何枚かあるのを確認すると、それを握りしめて駄菓子屋の狭い通路へと歩を進めた。子供の頃は宝の山に見えたのに、着色料の色合いに今では心を動かさない。  串に刺さった酢漬けのイカとラムネの瓶を一本手に取ると、店番のお婆さんに幾らかの小銭を支払った。店の外に出てビー玉の詮を押し込むと、飲み口から溢れ出したラムネが、瓶を握っていた左手を濡らした。  商店街から一本入った脇道に、影を長く伸ばした井戸の手押しポンプ。それが視線の先にある。ラムネがからになったなら、あのハンドルを上下に動かして、手を洗えば良いだろうと思いながら、ラムネを一口飲み込んだ。
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