告白

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 サッカーボールをネットに入れて、それを前足で蹴りながら歩く小学生の男の子が、商店街の脇道に消えて行く。こんな込み入った街なのに、サッカーをやる場所などあるのだろうか。  自転車を押しながら歩く子供もいる。狭い通路なだけに、親に乗るなとしつけられているのかも知れない。肉屋の店先でコロッケにかじりついている男の子を見かけると、いつの時代でも買い食いの光景は変わらないのだなと、思わず微笑ましく思えた。  夕食の買い出しをする主婦達の、惣菜の試食に爪楊枝を突き刺している姿を観て、若い頃の記憶が蘇る。『どうしたら、こんなに柔らかく煮る事が出来るの』と惣菜屋のおばさんに聞いていた、妻の姿をおもわず思い出した。 『この子が産まれて来るまでに、もっとお料理が上手くならなきゃ』と、ふくれ始めた腹に手をあてて逢坂 義之に微笑んだ妻は、もういなかった。
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