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黒光りする座卓が、アルミニウムの粉末が撒かれた事に依って、恰かも蒔絵が施されたかの様に映っている。白地の湯呑み茶碗には、ベジタブルブラックの炭素の粉末が吹かれ、こちらも幾つかの紋様が現れていた。
「かなり出るな」
逢坂 義之は鑑識官の後ろに立って、指紋採取の様子を伺っていた。
「拭き取られた様子は無いですね」
一人の鑑識官が云った。遺体には刺し傷がある。しかし、凶器と視られる刃物が発見されていない。犯人は、指紋が照合される事を恐れてはいないのか。だとするなら、手袋を嵌めていたかも知れない、と逢坂は推測した。
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