記憶

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 高校生になってアルバイトを探し始めた時、何処の企業や商店も、浩也を受け入れてくれる場所は無かった。面接に立ち会った者達は総じて『不景気だから』と浩也を突っぱねた。それが本当の理由で無い事くらい、承知はしている。履歴書に眼を落とした者達は一様に、表情を曇らせたのだから。  このビルのオーナーのゆかりは、六年前まで小学校の教壇に立っていた。その最後の教え子の一人が、浩也だった。養護施設で暮らす浩也を、ゆかりは他の生徒と分け隔てる事無く接してくれた。アルバイト探しに窮していた浩也を観かね、本来この様な場所での就労を認めない高校に乗り込み、許可を取り付けてもくれた。卒業後の進路が決まらない浩也をも、ゆかりは迎え入れてくれたのだ。
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