二章 死地へ赴く

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京都所司代・村井貞勝は、今日も深夜まで政務に追われており、就寝したのは日付が変わってからであった。 行政手腕に長けていた貞勝は早くから織田信長に重用されてきた。 京都所司代に任命された後は、朝廷との交渉、京都の治安維持、本能寺や御所の修復など幅広く活躍し、織田政権下における京都の行政を一手に引き受けていた。 五十の半を迎えても、その手腕は衰えるどころかますます冴えるだかりである。 「(明日いよいよ朝廷と上様が会談なさる。果たして上様は三職推任をお受けになられるのだろうか…。どちらにせよ、明日も忙しくなりそうじゃて…)」 この老人、寝る直前まで頭の中は政治のことでいっぱいである。 もしかしたら寝てる間も考え続けているかもしれない。 … … … 「……父上…父上ッ」 どれくらいの時間が経ったのだろうか。貞勝は目を覚ました。辺りはまだ暗い。 「貞成か…? かような時間に一体何の…」 貞勝の息子である村井貞成は、貞勝の言葉を遮って言った。 「本能寺が明智勢に囲まれておりまするッ!」 「何とッ」 村井邸は本能寺の向かいに位置しており、彼らは早期に異変を察知することが出来た。まだ戦闘が始まってる様子はない。 「今の時点での最善は…」 貞勝が戦に出ることなど皆無であり、兵もほとんど持っていない。 「信忠様の元へ参るッ」 貞勝は寝巻き姿のまま馬に跨り、鞭を打った。
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